| どんな蘇生処置も、むだだとわかっていた。末期患者の看護婦である彼女には、娘は死ぬのだとわかっていた。しかし、母親でもある彼女には、医師に娘を死なせてやってくれということもできなかったのだ。
 
 それからの数時間、医師たちは娘さんの動脈に注射をしたり、鼻にチューブを入れたりした。心臓が停止すると、パドルを胸に当て、電気ショックを与えて蘇生させようとした。
 医師たちが娘に何をしているかを悟って思わず息をのむと、助手をしていた看護婦が彼女を廊下へ連れ出し、そこで待っているようにいった。
 
 「すべてが終わったとき、やっとわたしは中に入れてもらうことができました。蘇生チームの全員ががっくりとうなだれて引き揚げていきました。娘の命を延ばすことができなかったからです。彼らがドアを閉め、わたしは病室で娘の遺体とふたりきりで残されました」
 
 彼女は、かなり長い時問、娘さんの遺体と一緒に黙って座っていた。そのとき、衝撃的なことが起こった。
 娘さんが起き上がると、彼女の目をまっすぐに見つめたのだ!
 「あの子は生きていました。わたしにはわかります」
 彼女はいう。
 「娘はわたしの手を握りしめていいました。
 『ママ、心配しないで。わたしはもう大丈夫だから』(略)」
 
 彼女はこう語った。
 「わたしは悲しみで我を忘れたりはしていませんでした。看護婦の目で、冷静に見ていました。でもあなたの講演を聞いて、娘があのメッセージを伝えるためにほんの数秒間だけ戻ってきてくれたのだとわかりました。娘の死について、これから臨死体験の話を聞いたいまは違った考え方をするようになると思います」
 
 引用文献:
 メルヴィン・モース/ポール・ペリー著, 池田真紀子訳(1995)
 『死にゆく者たちからのメッセージ』同朋舎出版, pp.36-37
 
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