誰かに助けられ、誰かを助ける |
今迄ずっと一緒に過ごしてきたお子さんが逝ってしまった後、ぽっかり空いてしまったその穴をどうにか埋めようと、お子さんの生きていた手掛かりを探すことに一生懸命になるご両親、いらっしゃることと思います。
お子さんの部屋でぼーっとしばらく座って時間を過ごしたり、お子さんが手にとって読んだ本を同じようにページをめくってみたり、お子さんの洋服をたんすの中から出してみては、匂いをかいでみたり…。
どこに逝ってしまったんだろう、今はどのあたりにいるんだろうか…そんな気持ちが心の中を大きく占めていることでしょう。
そのようなご両親にお届けしたい言葉が、サン=テグジュペリ氏の作品『星の王子さま』の中にありました。サハラ砂漠に不時着した操縦士と、小惑星B612から地球にやって来た王子さまとの交流が描かれた作品です。
地球にやって来てからちょうど1年経った日、王子さまは自分の星に帰ろうとするのですが、王子さまは仲良くなった操縦士に、そばにいないでほしいと告げます。
そのやりとりが、まるで亡くなっていこうとするお子さんと、この世に遺されるご両親との心のやりとりを表したかのようなのです。
王子さまが操縦士(ぼく)に語る言葉は、お子さんがあなたに伝えたい言葉のように思えてきます。
王子さまは次のように話し始めます。 |
「こないほうがよかったのに。
それじゃつらい思いをするよ。
ぼく、もう死んだようになるんだけどね。
それ、ほんとじゃないんだ……」
ぼくはだまっていました。
「ね、遠すぎるんだよ。
ぼく、とてもこのからだ、持っていけないの。
重すぎるんだもの」
ぼくはだまっていました。
「でも、それ、そこらにほうりだされた古いぬけがらと
おんなじなんだ。かなしかないよ。
古いぬけがらなんて……」
ぼくはだまっていました。
王子さまは、すこし、気がくじけたようでしたが、また、気もちをひきたてて、いいました。
「ね、とてもいいことなんだよ。
ぼくも星をながめるんだ。
星がみんな、井戸になって、さびついた車がついてるんだ。
そしてぼくにいくらでも、水をのましてくれるんだ」(略)
「だからね、かまわず、ぼくをひとりでいかせてね」
引用文献:
サン=テグジュペリ著, 内藤 濯訳(1953)『星の王子さま』
岩波書店, pp.146-148 |
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王子さまはここでは亡くなるわけではなくて、自分の星に帰るために、蛇に噛まれようとするわけです。その辺りはファンタジー文学の世界の中の話と言われてしまえばそうかもしれませんが、肉体を置いて自分の星に帰るという表現は、まるで亡くなった時に、肉体は地球に残し、魂だけが自分の星に帰るというように感じられます。
そして魂が帰った先で、周りのたくさんの星が助けになってくれるのであれば、ますますありがたいですね。
そう言えば、王子さまは地球に来た頃、蛇にこんな話をしていました。 |
星が光ってるのは、みんながいつか、
じぶんの星に帰っていけるためなのかなあ。
ぼくの星をごらん。ちょうど、真上に光ってるよ……。
だけど、なんて遠いんだろう!
引用文献: 前掲書, p.93
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地球で短く終わった命でも、自分の星に帰ってから、長くずっと光り続けています。誰かの星に助けられ、そして誰かの星を助けながら。 |
2014/12/13 長原恵子 |