病児・家族支援研究室 Lana-Peace(ラナ・ピース)
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病気と一緒に生きていくこと
ポニーテールと弾む心

昨日、下りのエスカレーターで、私の前には幼稚園の年長さんくらいの女の子とお母さんの親子が立っていました。
女の子の髪はきれいにとかされて、ポニーテールにまとめられ、かわいい髪飾りがきらきら光っていました。そして女の子の耳には補聴器が…。
それは隠すわけでもなく、実に潔く、とても自然に女の子の一部になっていました。

「あー」と声を出しながら「一緒に」という手話をしているのが見えたので、一瞬、最近読んでいるヘレン・ケラー女史のことを思い出しました。
そして「この女の子も知りたいことや伝えたいこと、きっといっぱいあるのだろうなぁ」と考えていました。

すると突然、女の子は後ろを振り返ってこちらを見たのです。
目が合ったので思わずにこっと微笑み返したら、女の子はきょとんとした顔で私の顔を凝視して覗き込み、前を向きました。
「知らないおばちゃんを見て、戸惑ってしまったのだろうか…」と思ったところ、3秒ほどして女の子は振り返り、にっこり笑いました。
その後、振り返り、微笑み、手を振り、最後にはハイタッチをしようと右手を上げてきました。
エスカレーターが廊下に到着するまでの僅かな間に。

廊下についたので、私と女の子は真逆の方向へ分かれたのですけど、その女の子は2度振り返って「バイバイ」と手を振っていました。
その後10mほど歩いたのですけど、もしかして…と振り返ってみたら、
同時に女の子が振り向き、手を大きく伸ばして上げていました。

時間にしてたぶん数分の出来事だろうと思います。
でもその女の子は私の心をとてもあったかくしてくれました。
年を重ねて、心のくすみがたまっていた私には、その女の子が実に神々しく見えました。

ヘレンは次のように記しています。

数年後、話すことを学んでから私の生活は広がりました。
私は今でも、あの三六年前の出来事に驚きと興奮を禁じえません。それはあまりに特異で、奇跡的で、当惑させるような、きわだった事件だったのです。

深夜の静寂の中で、魂のない無音の息が声に変わったときのことを想像してみてください。文字どおり、私は話すという概念をもっていませんでしたし、私の触覚も、話す言葉の微妙な振動を感知するほど敏感ではなかったのです。

へレン・ケラー著, 鳥田恵訳(1992)『へレン・ケラ一 光の中へ』めるくまーる, p.200

へレンは「深夜の静寂の中で、魂のない無音の息が声に変わったときのことを想像してみてください。」そう書いていますが、そこには本当に大きな驚きとわくわくした思いが突然やってきたのだと思います。

何かを伝えるということは、誰かとつながっていくための大切な手段。
たとえ耳に不自由さを抱えていても、その身体と共に生きて、大きくなって、人として成長していく…。
そう考えたら、病気で不自由な機能だったとしても、それをどんな風に活かして伸ばしていくか、それがとても大切なことだと思いました。

 
エスカレーターで出会ったあの女の子も、いろんな言葉を覚えて、これから心弾む瞬間をたくさん経験できますように…。      
2014/1/21  長原恵子